小説

ジャン・クリストフ 1

「ああ!伯父さん」と彼は言った。「僕は苦しいんだ!」 「伯父さん、どうしたらいいんだろう?僕は望みを持った、そしてたたかった。だが、一年たっても、前と同じところにいるんです。それどころじゃない!あと戻りしちまったんです。僕はなんの役にも立た…

小説 『永い言い訳』 に触れて

西川美和さんの作品を読んでいると、善い小説の真の効力を思い知らされる。 それは読者に「主観」を与えてくれることであると思う。 小説なのだから当たり前ではないか、と一瞬思いはする。 とは言っても、私たちの内面は日頃そこまで豊かに語らないし、仮に…

エドガー・アラン・ポー 『群衆の人』 

「あの老人は—」ようやく言葉が出た。 「罪悪の典型にして権化。どうあっても一人にならない。群衆そのもの。群衆の人だ。いくら追っても無駄なこと。あの人物、あの行動が、これ以上わかることはない」 ーポー著 小川高義訳『群衆の人』より とある秋の日の…

小説 ジキル博士とハイド氏

各時代ごとに造られる怪物観 「怪物は境界線に存在する」という言葉がある。 我々人間は完璧に境界を異にした存在に対しては、それがいかに恐ろしい存在であっても怪物という言葉は使わない。 異質な存在であるにも関わらず、そこに人間的な何か、あるいはか…

魯迅『狂人日記』と『阿Q正伝』

近代に生きる人間の悩める自我について