絵画 『羊の剪毛』

上野にある国立西洋美術館に一点、心惹かれてならない作品がある。 常設点も終わりに近い近現代美術の作品群の手前。暖色に照らされた、19–20世紀の美術作品を並べる部屋の中に、その作品はある。 『羊の剪毛』と銘打たれたその作品は、同じ空間に並ぶエキゾ…

ジブリ作品『もののけ姫』 「祟り神」が象徴するものとは

ジブリ作品とドロドロの怪物たち 宮崎駿作品にはしばしば、ドロドロした気味の悪い怪物が現れる。 『風の谷のナウシカ』の巨神兵や『千と千尋の神隠し』の暴走するカオナシなど、挙げればきりがないが、核兵器の脅威や巨大化し続ける胃袋(欲望)など、いず…

映画『ミッドナイト・スペシャル』 

あらすじ ロイの幼い息子アルトンに備わった不思議な力。その神秘的な能力を狙って、カルト教団の魔の手が忍び寄る。追われる父と子は夜を徹して逃亡するが、追跡に国家権力がからみ、全国規模の指名手配へとエスカレートしていく。ロイは全てを犠牲にして、…

ピクサー作品『ウォーリー』 管理社会へのブラックで優しいメッセージ

あらすじ 29世紀の地球。700年もの間、たった独りでゴミ処理を続けているロボット【ウォーリー】。彼の夢は、いつか誰かと、手をつなぐこと。ある日、そんなウォーリーの前に、真っ白に輝くロボット【イヴ】が現れる。一目惚れしてしまったウォーリーが、イ…

映画『エクス・マキナ』 AIという禁忌と『惑星ソラリス』

あらすじ 検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”でプログラマーとして働くケイレブは、巨万の富を築きながらも普段は滅多に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。しかし、人里離れたそ…

映画 『ノーカントリー』 怪物として描かれる近代と新世代

あらすじ 麻薬カルテルの抗争現場で、偶然大金を拾った主人公ルウェリン 彼はふとした善意が災いして、麻薬カルテルに追われることになる カルテルが雇った殺し屋は、標的など関係なく人を殺しまくる怪物であった 知力の限りを尽くして対抗するルウェリンは…

映画 『パンズ・ラビリンス』 ギレルモ監督の世界観とジブリ愛

昔むかし、遥か昔 嘘や苦痛のない魔法の王国が地面の下にあった その王国のお姫様は人間の世界を夢見ていた 澄んだ青い空や そよ風や 太陽を見たいと願っていた そしてある日 従者の目を逃れ お姫様は逃げ出した でも 地上に出た瞬間 光に目がくらみ すべて…

映画 『イット・フォローズ』

・あらすじ 19歳のジェイはある男から“それ”をうつされ、その日以降、他の人には見えないはずのものが見え始める。動きはゆっくりとしているが、確実に自分を目がけて歩いてくる“それ”に捕まると確実に死が待ちうけるという。しかも“それ”は時と場所を選ばず…

映画『カニバル』

・あらすじ 優れた腕を持つ仕立屋として慎ましく生活する主人公。 彼は夜な夜な出かけては女性を殺して食べてしまう食人鬼であった。 ある日美しいルーマニア人に目を奪われた彼は、予想外の感情を経験する。 愛を知った食人鬼がのちにとった行動とは。 ・野…

映画 ドリーム ホーム 99%を操る男たち

「方舟に乗れるのは100人に1人だ。他は溺れ死ぬ。私は溺れない」 (劇中台詞より) あらすじ サブプライムローンの返済不能により、自宅を差し押さえられた主人公ナッシュ。 彼は愛する息子や母のため、そして「家」を取り戻すために不動産ブローカー、カー…

映画 マイケルムーアの世界侵略のススメ

・あらすじ 第二次世界大戦以降、なかなか戦争に勝てない割に軍事費がとてつもない額になっているアメリカ。 それならアメリカ軍に代わって私(マイケル・ムーア)が代わりに他国を侵略して、資源の代わりにいろんなアイディアを盗んできます。 そんな無理や…

イーライ・ロス監督 映画 ノック・ノック

・あらすじ LAの郊外の高級住宅。家族4人とわざとらしいほど幸せに暮らす主人公の父。 とある大雨の夜に訪ねてきた2人の美女を雨宿りさせた彼は一夜の快楽に身を堕としてしまう。 翌朝起きると、一夜を共にした2人は豹変し、狂気に満ちた行動を繰り返し始…

映画 神様メール

・あらすじ ブリュッセルのアパートに住んでいる3人家族。いじわるなお父さんとおとなしいお母さんと暮らす娘のエア。 自宅でパソコンをいじって暮らすわがままなお父さんは世界を作った神様だった。 お父さんに嫌気がさしたエアは、神様の仕事道具にいたず…

映画 善き人のためのソナタ

・ヴィスラーの出会った二つの作品 東ドイツ国家保安省(シュタージ)の大尉ヴィスラー。 彼が監視することになる劇作家ドライマンとその恋人マリア。 彼らの情熱的な愛情の日々を盗聴するヴィスラーはやがて、自身の孤独な生活や、社会主義を利用して権力乱…

小説 ジキル博士とハイド氏

各時代ごとに造られる怪物観 「怪物は境界線に存在する」という言葉がある。 我々人間は完璧に境界を異にした存在に対しては、それがいかに恐ろしい存在であっても怪物という言葉は使わない。 異質な存在であるにも関わらず、そこに人間的な何か、あるいはか…

映画 レヴェナント:蘇りし者

死に抗う二つの魂 開拓時代、大陸を覆う大自然がまだまだ人間にとっての圧倒的な脅威であった時代。入植者であるアメリカ人やフランス人、そして部族間抗争や、植民者達の破壊に怒る先住民たち。人間の理想や利害、欲望と憎しみが入り乱れながら多くの血が流…

映画 エリジウム

強固な秩序に抗う強化外骨格 近代性、合理性を視覚的に映し出したシステマティックなロボットたち。 超富裕層の安逸な生活を支え、人口過剰や環境汚染問題に代表されるような、普遍的問題の解決を一部富裕層のみの救済に見出すデストピア世界。 人間性、そし…

ジョン・キーツ つれなき美女

セイレンに魅了される詩人たち どうしたのだ、見事な鎧に身を固めた騎士よ、 かくも独り寂しく蒼ざめてさまよっているのは? 湖の菅(すげ)の葉は枯れ果て、 もう鳥も鳴かなくなったというのに! どうしたのだ、見事な鎧に身を固めた騎士よ、 そんなに憔悴…

映画 麦の穂をゆらす風

理想と理性の悲しい対立 イギリスの支配に対して反乱を起こしたアイルランド人は多くの犠牲と苦難を乗り越え、不可能と言われた改革に成功する。 しかしその条約は自国の完全なる自由、支配からの解放とは程遠いものだった。 数々の苦難を奇跡的に乗り越え、…

映画 ボーダーライン

麻薬世界にうごめく不気味な男たちとエミリー・ブラント 作中に何度も映る空中からの俯瞰映像。メキシコに広がる広大な山々や砂漠、延々と広がるアメリカ、メキシコ間の国境線、そして両国の街の風景。 不気味なBGMとともに映されるその風景は、我々に客観的…

映画 海を飛ぶ夢

二つの魂が見た生と死とは? 若き日の情熱を愛と旅に託していた青年は、ある晴れた日の故郷の海である光景に目を奪われる。 それは海岸で髪をなびかせながら、瞳を閉じて物思いに耽る美しい女である。 その光景に心奪われた彼は、気づけば高い崖から大海に飛…

映画 ロブスター

ちょっと渋みのあるファンタジーが観たいときにいいかも 自己のアイデンティティーに戸惑い、何かしらの権力に抑圧された若者が、何がしかのきっかけで自分の類稀なる素養に気づき、革命なり、世界的陰謀との戦いなりを導く人物になるような作品。近年10代…

魯迅『狂人日記』と『阿Q正伝』

近代に生きる人間の悩める自我について

映画 マジカルガール

激情と理性の国スペインで魔法使いはどう生きたか 美しいバルバラの体中に刻まれた傷。そして無垢な赤ちゃんを窓からほうり捨てる想像に、顔をくしゃくしゃにして笑う彼女から滲み出る狂気。 かつて魔法を使った少女は、自らを制御する術なく、狂気に沈んだ…