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映画 ロブスター

映画

 ちょっと渋みのあるファンタジーが観たいときにいいかも

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 自己のアイデンティティーに戸惑い、何かしらの権力に抑圧された若者が、何がしかのきっかけで自分の類稀なる素養に気づき、革命なり、世界的陰謀との戦いなりを導く人物になるような作品。近年10代の観客を中心に人気な近未来のデストピアものやファンタジー世界で多く見られる設定である。

 

 特に目立つのは優生学的な価値観を持つ社会に各個人が分別され、個性なく平和を維持する世界や、一部の特権階級の搾取によって隷属状態になった大多数の人間が疲弊した日常に苦しむ世界である。

 

 エネルギー溢れる若者たちは、ある年齢を節目に社会から言われるのである。

「あなたは単なる社会のパーツですよ」、と。そういった社会に帰属意識を持てぬ若者のフラストレーションを消化(昇華)させるこのような作品群が人気なのは大いに頷ける。

 

 しかし社会の価値観に順応し、日々を必死に生きる「大人」たちもまた、人生の様々な節目で自分を取り囲む環境に疑問や違和感を感じる。とは言っても、弓を片手に革命を起こしたり、伝説的な血筋に基づく魔法の力で諸悪の根源と戦うエネルギーはもはや残っていない。

 そんな私たちにも卑近な人生経験を投影した何かしら味わい深い近未来ものの作品はないものか?

 

 そんな需要がもしあったら本作品『ロブスター』はオススメかもしれない。

 あるいは高校を卒業するまで散々社会的脅迫とともに、成績や受験に追われながらも、急にあまりにも大きすぎる自由を差し出される大学一年生あたりにも何かしらしっくりくるような気もする。

 サークルやゼミやアルバイトを通して、いかに自分が充実しているか、孤独でないかを強迫観念のようにアピールし続ける人々。あるいは学問なり趣味なり、己だけの価値観に基づいて自主独立を目指しながらも、時々日常的な人と人との交流を心の底から求めしまう人々。

 目に見えない巨大な二つの勢力が日々せめぎ合い、その外にはあまりにも呑気で無関心な中立地帯が広がる。そんな環境に少しでも違和感があるならば誰でもこの作品を堪能できると思う。


映画『ロブスター』予告編