映画 麦の穂をゆらす風

理想と理性の悲しい対立

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 イギリスの支配に対して反乱を起こしたアイルランド人は多くの犠牲と苦難を乗り越え、不可能と言われた改革に成功する。

 しかしその条約は自国の完全なる自由、支配からの解放とは程遠いものだった。

 

 数々の苦難を奇跡的に乗り越え、やっとの思いで勝ち取った条約を守らんとする自由軍と、数々の苦難を奇跡的に乗り越え、多くの犠牲を払ったからこそ、真の自由を得るために戦わんとする共和軍。

 道は2つに1つしかなく、固く団結していたアイルランド人は分裂してしまう。

 

 客観的に、単なる歴史的傍観者の立場として観るならば、当時完全なる自由を勝ち取るのは極めて困難であったと思う。条約を守るために戦闘中止を叫ぶ自由軍は正しく、反対に共和軍は感情論に任せて今までの戦いを無駄にしようとしているように見えなくもない。

 しかし、戦いのために背反者の少年を涙ながらに処刑したり、拷問され、銃殺される運命の同胞を残しての脱獄をせざるを得なかった彼ら。

 反乱を通してあまりにも大きな犠牲を強いられた彼らの戦いを、計算と道理で終わらせることが絶対的な正解であり得ようか。

 

 イギリスからの解放のために乾いた功利主義に身を落とせば、我々も彼らと同じではないか。度重なる妥協を続けても、真の自由などないのではないか。こういった彼らの声を聞いていると、自由軍の重んじる理性にばかりに賛同することもできなくなる。

 

 理想のために戦う者と、現実を考えて戦いをやめる者、二つの理念を、ある絆の深い兄弟に託して描くこの作品。

 引き裂かれる兄弟の悲哀、そして彼らを包むアイルランドの美しい自然風景を通して普遍化されるこの作品のテーマは、我々の人生の随所にも見出しうる悩み深い二功対立である。


映画 「麦の穂をゆらす風」 (06 アイルランド英独伊西) 予告編