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映画 レヴェナント:蘇りし者

 

死に抗う二つの魂

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 開拓時代、大陸を覆う大自然がまだまだ人間にとっての圧倒的な脅威であった時代。入植者であるアメリカ人やフランス人、そして部族間抗争や、植民者達の破壊に怒る先住民たち。人間の理想や利害、欲望と憎しみが入り乱れながら多くの血が流された、建国時代のアメリカの荒涼とした大自然が舞台である。

 

 粗野で力強い男たちが命を散らす世界を前に決して死を受け入れず、生命への驚異的な執着を見せる二人の男によって描き出される緻密な人間描写は、本作品の中でも最も重要な見所の一つだろう。

 

 本作品で悲願のアカでミー主演男優賞を獲得したデカプリオの驚異的な演技を通して描かれる彼のサバイバル。心身ともに圧倒的絶望の中に落とされたにもかかわらず、彼を殺さず、行動させたものはなんだったのか?この問いこそ、この映画のミソであるとは思う。

 が、しかし一方で、主人公グラスの宿敵であり、卑劣な行動を繰り返す悪役に徹するトム・ハーディー扮するフィッツジェラルドの人間臭さ、というより彼をこそしぶとく生かし続けた力、すなわち彼の生命観に強く印象付けられるものがあった。

 

 フィッツジェラルドはかつてインディアンの襲撃に遭い、生きながらに頭皮を割かれる(一部の部族が、アメリカ人の先住民虐殺に対抗して行った)という壮絶な過去がある。トム・ハーディーならではの男気溢れる顔つきや屈強な体には不釣り合いな、禿げ散らかった頭髪は、見ていて非常に痛々しい。

 

 しかし何よりも彼の人間性を印象付けるのが、作中で語られる彼の父の過去である。

 神など信じなかった彼の父がサンサバの丘に狩りに行った際、コマンチ族の襲撃によって仲間と馬を失い、独り絶望と飢えによって死の危機に瀕したときのことである。荒野の真っただ中に一本だけ高く伸びた木に登り、彼の父は信仰に目覚めたという。果たしてその木に登り彼の父が見出したものは、一匹の肥えたリスであった。

 「輝かしい栄光と崇高な慈悲に包まれながら、親父はそいつを撃ち殺して食ったのさ」。

 闇夜に沈む森の中で火を焚き、仲間の青年に焼いた肉を渡しながら、フィッツジェラルドは父の過去を遠い目で語る。

 

 彼の父が見出したこの神こそ、危機に瀕した彼を生かし、彼と主人公を決定的に対立させるものではないか。彼に目を覆うような卑劣な行動をさせる原動力となり、生命に執着させる、近代世界の大元となったあの神ではなかったか。

 

 現代を生きる我々は、ともすると大自然の中に生活を持った先住民と家庭を築き、その自然を畏敬することで多くの知恵を得た寡黙な主人公よりも、生存のために必要とあれば何をしてでも生きようとし続けるフィッツジェラルドの姿に共感してしまう瞬間があるかもしれない。

 

 また瀕死の主人公を見捨てようとするフィッツジェラルドに2度も命を救われ、彼と行動を共にする青年の引き裂かれる善意とその後の苦悩も、我々観客に多くの共感を与えるであろう。

 

 しかし何よりも、主人公の圧倒的な絶望とその後の復活、そして主人公が達成しなければならなかった“ある”行動を終えた後に、遂には帰れるはずであった亡き妻の姿、そしてその姿が消えた後に向けられる主人公の目線が意味するもの、これらを通して訴えかけてくるこの作品のテーマを、是非とも味わい尽くしたい。

 


映画「レヴェナント:蘇えりし者」予告