映画 ドリーム ホーム 99%を操る男たち

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「方舟に乗れるのは100人に1人だ。他は溺れ死ぬ。私は溺れない」

(劇中台詞より)

 

あらすじ 

サブプライムローンの返済不能により、自宅を差し押さえられた主人公ナッシュ。

彼は愛する息子や母のため、そして「家」を取り戻すために不動産ブローカー、カーバーの下で働くことになる。

自分たちを追い込んだ悪徳不動産業者、そして腐敗した行政システムを逆手に利用して大儲けをするナッシュ。

大金を稼ぐほど、彼の守ろうとした「家」、そして家族から遠のいていく彼はある決断をする。

 

・99パーセントから1パーセントへ 

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 圧倒的格差社会となってしまったアメリカに追い打ちをかけるようなリーマンショック。富めるものは政府から救済され、貧しいものは政府によってどんどん追い詰められる非人道的世界が舞台である。

 そんな悲劇を経験した多くのアメリカ人のうちの一人であった主人公のナッシュは、皮肉にもその才能を買われ、富めるものの側につく機会を得る。

 

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 政府や企業から搾取される側の痛み、とりわけ家族にとって最も神聖な「家」を奪われる痛みを生々しく描きながらも、反対に富める者たちのサバイバルや、彼らを突き動かす哲学、そして彼らに隠された恐怖をも描く本作品。

 名優マイケル・シャノン扮する不動産ブローカー、カーバーを恨みつつ、その力強い言葉に魅力され、共感させられていく主人公の姿を通して、暴走するアメリカの資本主義の根源を目撃させられる。

 

・成功の階段を登る主人公が犠牲にしたものとは

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 いわゆる勝ち組側についた主人公が成功していく影で、彼が踏みにじらなければならなかった多くの人々の嘆き。それはかつて主人公が搾取される側であった時の苦悩を蘇らせる。

 彼の行動によって直接一人の人間、そしてその家族が崩壊しようとする現場を目にすることになるナッシュ。その際に彼がとった行動とはどのようなものであったのか。

 精神なき合理主義、弱肉強食世界での勝利を選ぶか、それとも人間性を選ぶか。

 ラストシーンで、選択を行なった主人公を見つめるある存在。彼の視線が意味していたものとは何であったのだろうか。

 


映画『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』

 

(資本主義関連で前回の『マイケルムーアの世界侵略のススメ』と共通するテーマがあったので以下思いつくままに)

・資本主義の圧倒的恩恵で育ったアメリカ 

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 かつて強い経済感覚を育持ちながらも、ヨーロッパにいどころのなかったピューリタン(イギリスのカルヴァン派)が多く渡ったアメリカはとりわけ資本主義に特化した経済を育ててきた。

 第一次世界大戦でヨーロッパが自己崩壊していく間に、彼らからどんどん富を絞り上げたことで世界一の経済大国になったアメリカにとって、資本主義は脅威ではなく、成長に不可欠な神聖な存在と見なされていた。

 

・「共産主義からの守り手」の誇りを崩さぬアメリカ

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 長きに渡る冷戦において資本主義の守り手として戦ったアメリカは、政府による国民への規制に対して桁違いのアレルギーがある。

 規制=共産主義、というロジックでいかなる改革も踏みにじることができる彼らにとって、福祉とは恥ずべきものであり、国民一人一人の自助努力こそ美徳とされてしまう。

 

 とはいっても彼らは一歩遅れて資本主義の恐さを学び始めてるのかもしれない。イラクへの介入やリーマンショックを経て疲弊し始めたアメリカでは、ブッシュ政権は恥辱と見なされ、キリスト教原理主義にすり寄って労働者を操った共和党はトランプによってめちゃくちゃに荒らされた。

 オバマケアなどの改革もあまりうまくいっていない上、新しい大統領を選んでいる真っ最中の彼らだが、資本主義への姿勢は確実に変わりつつある(と願いたい)。

 

・アメリカを笑っていられない日本

 驚きの速度で近代化を遂げた日本もまた、資本主義のもたらした世界的利権争いの渦中にあった国である。

 列強国の植民地支配に必死に抗い、第一次世界大戦においては戦勝国側となった日本は経済的に莫大な利益を得た。そして第二次大戦では大国アメリカと戦い、自国は焼土と変えされた上にあまりにも多くの人命を失った。

 資本主義の恩恵と恐ろしさを目にした日本。しかし戦後の新しい制度を作り上げていく過程で、凄まじい好景気、高度経済成長を迎えてしまった。

 資本主義は戦後、ひたすらに成長の要であり、その恐さはあまりフォーカスされないままになってしまったのかもしれない。

 

 他国とは全く異なる近代化を遂げた日本。その異形の成長形態にこそ日本独自の知恵と力強さがあったのは間違いない。

 しかし異形の近代国家日本の負の側面、戦後暴走している資本主義とどう向き合うかを考える機会がもっとあれば、最近物議を醸しているブラック企業問題のような暗いニュースは減っていたのかもしれない。