映画 『パンズ・ラビリンス』 ギレルモ監督の世界観とジブリ愛

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昔むかし、遥か昔 

嘘や苦痛のない魔法の王国が地面の下にあった

その王国のお姫様は人間の世界を夢見ていた

澄んだ青い空や そよ風や 太陽を見たいと願っていた

そしてある日 従者の目を逃れ お姫様は逃げ出した

でも 地上に出た瞬間 光に目がくらみ

すべての記憶を失ってしまった

-映画字幕より

  あらすじ

ファシスト政権化のスペインで、過酷な現実世界に日々怯える少女オフェリア

そんな彼女のもとにある日妖精が訪れ、彼女を魔法の世界に誘うようになる

魔法の世界に戻るためには過酷な試練を受けねばならぬという

厳しい試練の数々を経験しながら、成長していくオフェリアに待ち受ける運命とは

 

過酷な現実とおとぎ話 

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 父を失い、生活のためにファシストの将軍と再婚した母と共に山奥に引っ越したオフェリア。

 捕まえた敵を殺したり拷問したりの新しい父に怯えながらの毎日に加え、大好きなお母さんは将軍の子を妊娠してから、日々体調が悪くなっていく。

 彼女にとっての唯一の救いは、大好きなおとぎ話の世界であった。

 

魔法の世界に目覚めるオフェリア

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 そんな彼女は、自らを魔法の世界に誘う妖精、そして森の精「パン」と出会い、魔法の世界に戻るための3つの試練を課される。

 森の精にしてはかなり気持ち悪い風体のパンに恐怖しつつ、同時に魅了されるオフェリアは、魔法の世界こそ本来の自分の居場所であることを確信する。

 その後の試練で登場する、作品全体の詩的でな雰囲気を破壊するようなグロテスクな描写の数々は、世界中の観客を驚かせた。

 

なぜそんなにグロいのか

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 将軍であるお父さんの敵対者への暴力と、オフェリアの経験する試練のみ、別次元の残虐描写をもって描かれる本作品。

 少女の魔法世界と彼女を取り巻く現実世界の描写にはある種の類似性がある。

 2つ目の試練で登場するかなりグロい怪物の部屋と、将軍の食堂はほとんど同じ構造で描かれる。

 

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 試練を通して登場するグロ過ぎる怪物達は、無垢な少女の目から見た過酷な「現実」そのものであった。

 魔法の世界が少女の空想なのか、それとも本物なのか、それは観る人それぞれに委ねられている。

 

魔法の世界と大人の世界

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 つらい現実から離れ、魔法の世界に戻るために戦う少女を描く本作品ではあるが、その戦いは現実世界でも同時並行で描かれる。

 冷徹な秩序の守り手であるファシスト政権側と、既存の腐敗した秩序に反抗するゲリラたちである。

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 機械的で閉塞感のある軍事拠点にいる将軍勢と、神秘的な森の中に住むゲリラたちによって繰り広げられる大人達の戦い。その描写一つ一つに、胸を締め付けられるような悲しみと感動が描かれる。

 内戦化のスペインという過酷な時代が舞台ではあるが、現実と魔法、大人と子供、秩序と反抗、そういった二項対立を通して、見る人それぞれの現実を投影させてくれる。

 

 

宮崎駿が大好きなギレルモデルトロ監督

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 日本のアニメ、とりわけ宮崎駿作品の大ファンであるギレルモ監督。彼の作品にはところどころに、ジブリ愛に満ちたオマージュが溢れている。

 

 本作品のテーマそのものも、『千と千尋の神隠し』に非常に近い。

 少女の異世界での闘争を通して、親の庇護のもとでうたた寝していた存在が一人前の大人になるか、それとも?という選択を迫る。

 胃袋の形をしたカオナシ(欲望の象徴)に似た怪物も登場する。

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  他にも『となりのトトロ』、『もののけ姫』など、何回見ても思わぬところに愛に満ちたオマージュを隠している本作品は、見つけるごとに新たな感動を覚えさせてくれる。

 映像特典のコメンタリーなどで、2時間以上にわたって嬉々としてディティールを語りまくるギレルモ監督。深淵なテーマを扱う映画作りの巨匠であるにも関わらず、その無邪気さを捨てていない姿に思わず微笑んでしまう。

 

ラストシーンに込められたメッセージ(ちょっとだけネタバレ)

 

お姫様はこの世に“小さな印”を残していったという

注意して探せば きっと“印”に出会えるはずだ

ー映画字幕より

 

 本作品のラストシーンでナレーションとともに映るもの。それは『もののけ姫』の作品ラストで森の中にそっと写される、「あの存在」へのオマージュであろう。

 神なき人間世界にも、「あの存在」が残っているという宮崎駿のメッセージを、感動とともに思い出させてくれる。

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 魔法を失い、理性の世界の住人になってしまった大人達でも、世界に隠れた美を見つけることができる、そんな監督の暖かいメッセージと共に幕を閉じる、傑作中の傑作である。