映画『エクス・マキナ』 AIという禁忌と『惑星ソラリス』

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あらすじ

検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”でプログラマーとして働くケイレブは、巨万の富を築きながらも普段は滅多に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。
しかし、人里離れたその地に到着したケイレブを待っていたのは、美しい女性型ロボット“エヴァ”に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能のテストに協力するという、興味深くも不可思議な実験だった・・・。

ー公式サイトより

 

  

センスの良すぎる近代建築

 

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 アメリカ人の富裕層が好んで建てる住居や、日本の公的建築物によく見るもので、自然空間を贅沢に利用した、美しく幾何学的なスタイルがある。

 広大な自然空間に屹立する、凄まじくセンスの良い近代建築。

 そういった建築物を見ていると、その建物に対して何か不思議な傲慢さ、そして畏敬の念を感じさせられることがある。

 最先端の知恵と技術が配されつつ、周囲の自然の美しさ、澄んだ空気、虫や鳥たちの鳴き声までをも貪る人間のあまりにも上品な傲慢さに、一種の深淵な何かを見てしまうからだろうか。

 それは科学や文明による自然世界への奇妙な侵食であるのかもしれない。

 

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 本作で頻繁に映されるセンスの良すぎる近代建築も、頂上を隠す高き山々、深き森、澄み切った川に囲まれ、非常に美しい。

 しかし圧倒的自然世界の中に忽然と存在する本作の幾何学的な建造物は、同時に何か世界の禁忌に触れたような不気味さをも醸し出す。

 

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 映画作品で視覚的に映される「家」は、しばしばそこに住む人間の人格そのものの象徴として描かれることがある。本作で孤独にAIを開発する天才ネイサンと、近代建築を重ねて見てみるとなかなか味わい深いものがある(ような気がする)。

 

 

禁忌として描かれる AI

 

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 同じくAIもので、スカーレット・ヨハンソンの絶妙なハスキーボイスで世の男性陣を魅了した『Her』のように、テクノロジーの進歩と高度なAIの登場を「善きこと」として詩的に、感動的に描いた作品と本作は極めて対照的である。

 

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 本作で登場するAIの世界は、人間の科学が踏み込んではいけない混沌世界に触れてしまったかのような、とめどない不安感を漂わせ続ける。

 

 

惑星ソラリス』の狂気の再来

 

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 圧倒的自然世界の中で、発達し過ぎた科学が世界の混沌に踏み込む話で有名なのが、 1972年のソ連映画『惑星ソラリス』である。

 星全体が一個の高次元の生命であり、宇宙開発で訪れた人間たちの脳内のイメージが物質化して現れる狂気の空間である惑星ソラリス

 

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 宇宙にまで進出し得るほどの科学力を得た人間たちではあったが、逆にその知識に追いつかぬ知性や道徳観によって、どんどん正気を失っていく様子を不気味に描く本作。

 凄まじい速度で発達し続ける科学知識が、人間の存在そのものを脅かす恐怖を思い知らされる。

 

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 人間ではないはずのものに、人間と同じ、あるいは人間以上の何かが宿っている(かもしれない)という AIと主人公の葛藤も、かつて亡くした最愛の妻がソラリスの星で具現化して現れた時のそれと通じるものがある。

 愛のような人間的な感情と発達しすぎた科学技術、神秘的な美しさと圧倒的な背徳感が伴う悩ましさも両作で共通しているように思われる。

 

 

その他いろいろてんこ盛り

 

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 他にもAIの「エヴァ」という名から想起されるように、キリスト教の創世記と重ねながら観られたり、主人公の背中に天使の羽のような傷跡があったりと、なにかと深読みや哲学的思考を誘う本作品。

 人工知能検索エンジンの凄まじい進歩、美しいAIとの恋、天才VS秀人など、他にも楽しめる要素だらけの最上級の娯楽作品である。