ピクサー作品『ウォーリー』 管理社会へのブラックで優しいメッセージ

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 あらすじ

29世紀の地球。700年もの間、たった独りでゴミ処理を続けているロボット【ウォーリー】。彼の夢は、いつか誰かと、手をつなぐこと。ある日、そんなウォーリーの前に、真っ白に輝くロボット【イヴ】が現れる。一目惚れしてしまったウォーリーが、イヴに大切な宝物“植物”を見せると、思いがけない事態が!イヴはそれを体内に取り込み、宇宙船に回収されてしまう。イヴを失いたくない!必死に宇宙船にしがみついたウォーリーは、大気圏外へ飛び出して…。宇宙の遥か彼方でウォーリーを待ち受けていたのは、地球の未来が懸かった壮大な冒険だった!
ー公式サイトより

 

 

安全で快適な管理社会(以下全体的にややネタバレ)

 

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 かつて人類の発展を支えた合理主義は、今や鋼鉄のような制度となって確立し、逆に人間を全面的に拘束し支配するにいたった。

 合理主義は、いわば非合理そのものに転落してしまった。

マックス・ウェーバー(意訳)

 

 環境汚染によって地球に住めなくなった人間たち。彼らは700年前に出航した豪華宇宙客船、アクシオムのなかで安全で快適に、しかし徹底的に管理された生活を送っている。

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 贅沢な生活の全てをロボットにお任せする生活は一見豊かで羨ましいものに見える。
 しかし彼らの生活というと、食って寝て、一日中イスの上でスクリーンをいじくるだけである。
 彼らは赤ちゃんのように無知で、個性のない生活を送っている。

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禁断の果実

 

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I don't want to survive! I wanna live!

ー映画字幕より


 安全世界にうたた寝していた人間たちを荒廃した地球に戻すきっかけとなるのは、探索ロボットエヴァが探し求め、ウォーリーが発見した植物である。


 船の全システムを管理するプログラム、「オート」は植物による船のリプログラミングと、地球への帰還を断固阻止しようとする。

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 オートは船内の全システムを人間に代わって管理し、反抗者や危険分子には容赦がない恐ろしい存在として描かれる。

 ウォーリーがきっかけで地球の環境を学び始めた船長ですらも、自分たちが管理され、ただ生かされていたことに気づくが、オートによって監禁されてしまう。

 

 ここで示される「地球」という場所は人間たちにとって快適さと安全さを失う「失楽園」でもある。

 しかし船内の空虚な生活にはない「何か」。それを彼らは求めずにはいられなくなる。

 

秩序への反抗

 

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 そんなオートの圧力に対して、ウォーリーたちを応援し、助けてくれる存在が2つある。客船に紛れ込んだウォーリーのドタバタによって、偶然液晶画面から目を離し、初めて世界を目にした人間と、

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 故障によって隔離、監禁されたロボットたちである。

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  どちらの描写もコミカルで可愛く描かれるものの、管理社会の下で空疎な生活を送る人間や、秩序にそぐわないはぐれもの達への容赦ない運命がブラックに描かれる。

 ウォーリーによって新しい世界に目覚めた彼らは、力強い味方になる。

 

地球への帰還と失楽園

 

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 空疎で安全な生活を捨て、念願叶って地球に降り立った人間たち。
彼らは管理社会から解放されたものの、これからは汚染された地球の厳しい環境の中で生きていかなければならない。
 彼らもまた、かつてアダムとイブが知性に目覚めて楽園を追放されたように、苦難に満ちた生活が待っていることだろう。

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ピクサーのブラックなメッセージ

 

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 しかし汚染された地球で、ロボットと人間が協力しあって暮らす様子はハッピーエンド以外の何物でもない。その風景はとても美しく、可愛らしく描かれるのみである。

 そんなあまりにも平和すぎる人間たちの描写に、少し違和感を感じる観客も多いかもしれない。

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 そんな観客に対して、エンドロール後の最後の最後のシーンで、これでもかと言わんばかりの毒っ気を効かせた“ある”シーンが映される。

 苦味のないハッピーエンドを楽しんだ人ほど、最後の最後で痛烈な皮肉をぶつけられるという少し意地悪な展開である。

 

 それでもやはり、本作が優しさに満ちた作品であることには間違いない。

 荒廃した世界で独り、希望を探し続ける旧式ロボットと、管理社会の下で自由を求める新型ロボットが出会い、世界に変化をもたらす愛の物語である。 

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