小説 『永い言い訳』 に触れて

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西川美和さんの作品を読んでいると、善い小説の真の効力を思い知らされる。

それは読者に「主観」を与えてくれることであると思う。

小説なのだから当たり前ではないか、と一瞬思いはする。

とは言っても、私たちの内面は日頃そこまで豊かに語らないし、仮に豊かな内面を秘めているにしても、日々の疲労、心労、自意識などによって麻痺し、硬化しているのではないだろうか。

小説の中で感受し、思考する内面の声を拾い、文字にすること、小説にすること、物語にすること。

それはゾンビのように脳内をフラフラとさまよい歩いている思索と感受に、美しい衣を着せて人間に戻そうとしている試みそのものである。

その人間が話し、考え、葛藤し、感動する姿を見て、読者もまた豊かな内面を微かにでも再生させることができるのだ。

善い作品は、健康な「主観」を与えてくれる、そう思うのだ。