映画 マイケルムーアの世界侵略のススメ
・あらすじ
第二次世界大戦以降、なかなか戦争に勝てない割に軍事費がとてつもない額になっているアメリカ。
それならアメリカ軍に代わって私(マイケル・ムーア)が代わりに他国を侵略して、資源の代わりにいろんなアイディアを盗んできます。
そんな無理やりな設定で各国を訪れては、アメリカよりもはるかに恵まれた制度を次々と紹介していくドキュメンタリー作品。
・マイケル・ムーアが盗んだ他国の制度(公式サイト情報+少しネタバレ)
テロや移民問題、EU関連のニュースで何かと暗い話題が目立つ西欧諸国ではあるが、彼らが常識として享受している制度はすさまじいほど恵まれている。
アメリカ人の目を通してこれらの常識を改めて紹介されると、彼らの豊かな生活に羨ましさが止まらない。
(以下主要な紹介国)
・イタリア 年間有給8週間+祝祭日+毎日2時間の昼休み休憩+etc
・フランス 低予算なのにシェフ付きの高級学校給食
・フィンランド 長時間の学習時間、宿題廃止+統一テストの廃止+世界でトップレベルの学力
・スロヴァニア(+20カ国以上) 大学の学費無料
・ドイツ 休日中の部下に上司が連絡を取るのは違法。終業後に部下にメールを送るのも禁止
・ポルトガル あらゆる麻薬の所持、使用を非犯罪化+麻薬使用率の激減
・ノルウェー ホテルみたいな刑務所+残虐な刑罰の一切を禁止+再犯率の激減。
・アイスランド 世界初の女性大統領を輩出+男女平等の徹底+
リーマンショック後に不正に関わった銀行家を全員収容+劇的経済復活
イタリアの年間8週間の有給+何かにつけてお休みがもらえまくる制度は別格だが、その他の紹介国も当たり前のように数週間分の有給が保証されている上、消化率は当然のようにほぼ100%である。
医療や教育の無償化に代表される優れた福祉制度も当たり前の存在。職場のストレスや長時間労働も徹底的に規制する。
彼らはなぜそこまで恵まれているのか。どうやってそんな制度を築き上げてきたのか。そんな疑問提示に応えるように、ヨーロッパの歴史や、これまで辿ってきた苦難の道のりをも紹介してくれる本作品。
そこで繰り返し示されるのは、権力や体制といかに向き合うべきか、という問いと、マイケル・ムーアの十八番のテーマである資本主義の負の側面である。
・権力の恐さを知ってるヨーロッパ
かつて絶対王政と教会権力によって支配されていたヨーロッパ。1789年のフランス革命と共に多くの血を流して自由を勝ち取った彼らは、あらゆる権力が流動的で、常に監視していなければ暴走する存在であることを、痛いほど知っているのかもしれない。
革命によって自ら近代世界、そして民主主義を勝ち取った彼らは常に体制を監視し、やたらに干渉する。
大学の学費を取ろうとしたら各国でデモが起きる。強力な独裁者は一人の青年の自殺をきっかけに追放される。女性の地位を落とせば経済も崩落する。
常に権力と向き合い、試行錯誤を繰り返し、歴史を振り返る彼らだからこそ、労働環境や福祉の圧倒的恩恵を維持できるのかもしれない。
お休みをもらいまくっているイタリアの年間の生産率は、フル稼働のアメリカ人や日本人の職場よりも高い。
・資本主義の恐さを知っているヨーロッパ
権力の恐さをさんざん学んだ彼らではあるが、近代と共にもたらされた資本主義経済との向き合い方を学ぶには多くの苦難があった。
19世紀以降、西欧各国の強いナショナリズムの形成を促した資本主義は、資源や植民地などの利権をめぐって、世界中で血みどろの戦争を繰り返させる原動力であり続けた。
そんな資本主義に反抗した人々は不安定な共産主義勢力を拡大させ、新たな独裁権力を誕生させる。
そういった共産主義への反動で、今度は資本家に支持されたファシズムの暴力が吹き荒れる。
そんなむちゃくちゃな混乱の中で世界大恐慌が起こり、もはや暴走は極限レベルに達する。第一次世界大戦、そして第二次世界大戦である。
ヨーロッパ全体が血にまみれた戦地となり、いくつもの村が壊滅し、莫大な数のマイノリティーが虐殺された。
そんな混沌を経験したヨーロッパは、資本主義の脅威を骨身にしみて学んだのだろう。
今日でも企業の不正に厳しく目を光らせ、労働環境を徹底的に改善する彼らは、資本主義による利潤追求が人間の生命を脅かすことを決して許さない。
そんなことを考えさせてくれる本作品。タイトルは少し過激だが、マイケルムーアの皮肉なユーモアを通じて世界を覗かせてくれる良質のドキュメンタリーである。