『彼女の声』 ラブデスロボット

 

Netflix

 ラブデスロボットシーズン3 『彼女の声』

 奇妙な作品ばかりの「love deth robots」シリーズの中でもずば抜けて「変」だ。

 まず映像がとても美しい、のに変。

 リアルすぎる実写映像のようにも見えれば、一昔前のゲーム映像のようにも見える。誰かの幻覚、あるいは夢の中を覗いているような映像とでも言えばいいのか。

 音も変。急に無音になったりビシバシの雑音を響かせて荒れたり。これには展開上の理由もあるのだが。変。

 そしてなによりも1番変なのがその世界観だ。一体これは何を見せられているのだ、、、そんな不安が最後まで付きまとう。

 小鳥のさえずりと虫たちの声に満たされた美しくも鬱蒼とした森を、装飾を施された美しい重装の騎士団が行進する。

 彼らは森の中で、老いた聖職者たちにかしずき、何か儀式的な忠誠を誓っている。

 そんな中で主人公の騎士。彼は耳が聞こえない。儀式をほっぽりだして川の中で金の破片を拾う。

 それに呼び覚まされたかのように、森の湖からは、宝石に包まれた艶やかな魔物が水面に立ち、踊り狂いながら高音の奇声を叫ぶ。

 奇声を耳にした騎士たちは途端に魔物に魅了され、叫び踊り狂いながら湖の真ん中に立つ魔物の元に殺到する。

 溺れ、殺し合いながら騎士たちが全滅したとき、耳の聞こえない騎士は一人だけ、魔物の声に狂わずに陸に止まっていた。

 その後、魔物は騎士を激しく求め、騎士は死に物狂いで逃げ、しかし魔物のあるものに魅了され、、。

 

 この話、明らかに神話上の魔物「セイレーン」の話なのである。

 美しく妖しい、女性的な自然世界と、重武装の合金に身を包み、統制された男性たちの対比。

 「理性的な」男たちが、妖しい欲望に狂い、求め、自滅してゆく。聖書や神話で頻出する、「誘惑される志高い男(聖者・英雄)たち」、の焼き直しだろう。

ac178d.hatenablog.com

 そのほかにも環境破壊や宗教、恋愛など、深読みはし放題。バグり散らかしているだけに、絶対的な解釈を求める作品では決してないと思う。

 しかし最後の騎士と魔物の狂気に満ちた舞踏を見せられるとき、神話的なテーマを現代的な映像で、美しくグロく、バグり散らかした映像で見せられてきた混乱が、一気に昇華されて感涙を誘う。なんなら何回か泣いている。

 まるで商材のように計算ずくで並べられたエンタメ作品よりは、いびつながらも魅力的な、昔ながらのNetflix作品の方が好きだ。玉石ゴミ混交の中に、たまにとてつもないものを見つけてしまったあのワクワク感、そんなものを思い出させてくれた作品だったと思う。