映画 マジカルガール
激情と理性の国スペインで魔法使いはどう生きたか
美しいバルバラの体中に刻まれた傷。そして無垢な赤ちゃんを窓からほうり捨てる想像に、顔をくしゃくしゃにして笑う彼女から滲み出る狂気。
かつて魔法を使った少女は、自らを制御する術なく、狂気に沈んだ人生を送ったであろうことがわかる。
激情と理性が均衡を保つスペインで、とある理性は彼女を愛することで彼女を破滅から救い、とある理性は彼女を恐れ秩序に閉じこもることを望んだ。
しかし彼女を愛する夫は、精神医学、安定剤、そして何よりも絶対的な主従関係をもって彼女を統制する術を知っている。
彼女の激情に魅了され、飲み込まれる弱い理性は、人の心を失った狂気に転じる点も面白い。
そんなバルバラが理性の支えを失い、砕ける鏡の前で自我を失いかけた時、マジカルガールの衣と杖を求める少女の父と出会うのである。
死にゆく白血病の娘に、唯一実現してあげられる夢のために強盗を試みた父は、藁をも掴む勢いの弱り果てたバルバラと一夜を重ねる。
彼が文学という、激情と理性の織り成す世界に親しんでいたこと、そして教師であったことはバルバラの目にどう映ったのであろうか。
彼女との情事を餌に、恐喝をせざるを得ない父。そして絶対的な支えである主人を失うことのできないバルバラ。彼女が大金を得るために訪れるのは、悪魔のように明哲な、車椅子に乗ったサディストであった。
かつての魔法使いが、死にゆく少女のために絶望的な苦痛に身を投じ、その苦痛によって、少女には何かしらの救いが与えられる。そんな美しく、味わい深い話になると思っていた。というよりなって欲しかった。
しかしマジカルガールに変身した少女は、何よりも大切な父親との時間を重ねることもできず、本物の怪物を前に魔法を使うこともできず、白色灯の下に硬直して佇むのみであった。
激情と理性が渦巻くスペイン。そして愛のために狂気に落ちていく人々。その世界での魔法の存在意義とはなんであったのであろうか。